岡山動物医療センター 腫瘍科について
<腫瘍診断の流れとは・・・>
一般に言われている『できもの』、『しこり』(腫瘤とよびます)の中には腫瘍というものがあり、
その中で悪性度が強いものが悪性腫瘍(がん)と言われています。
悪性腫瘍の挙動とは・・・
局所で浸潤性に増殖し
転移性を有し、
腫瘍によっては、存在することで全身に影響を及ぼす「腫瘍随伴症候群」を有します。
上記の性質は腫瘍のタイプにより異なります。
腫瘤を発見した場合、まず正確な診断が求められます。
問診、身体検査、組織生検、血液検査、尿検査、画像診断(レントゲン検査や超音波検査)を実施しすることで、悪性腫瘍の種類と進行度、全身状態を把握します。
腫瘍の情報 T(tumor) | | |
所属リンパ節の浸潤の有無 N(Nodes) | | TNM分類という 腫瘍診断手順に従います |
遠隔転移があるかどうか M(Meta) |
全身の状態はどうか? S(Systemic) | | |
☑その腫瘍の性質(どのように局所で成長し、どのように転移し、体にどのような悪影響を及ぼすか?)
☑現時点でどの段階にいるのか?
☑根治できるのか?できないのか?
☑治療を制限する他の疾患を有していないか?
などを総合的に判断し、いくつかの治療選択肢を提示します。
それぞれの治療のメリット・デメリットを説明し、飼い主さまと話し合いをしながら、治療目的を明確に決め、納得のいく治療を飼い主さまのご協力のもとに行います。
『できもの』があるという場合はもちろん、元気や食欲がないという場合も腫瘍による影響ということもありますので、
まずは当院まで御相談ください。
<腫瘍症例紹介>
【胸腔内腫瘍】
胸腔内の構造物(心臓・肺・胸腺など)から発生する腫瘍です。
初期では無症状のことも多いのですが、進行すると元気消失・呼吸困難・上半身の浮腫みなど、様々な症状がでてくることがあります。
早期発見・早期治療が必要ですが、見た目からではわからないことが多く、定期的な健康診断(レントゲン検査や超音波検査など画像診断を含む)が望ましいです。
写真は胸腺腫という症例の写真です。
急激な呼吸困難の症状を主訴に来院されました。
(治療)
- 外科手術・化学療法
- 放射線治療が必要な場合は、実施している病院への紹介も行っています。
*幸い写真の症例の子は手術後(胸骨正中切開による腫瘍の摘出)、無事退院し数年間再発の兆候が見られませんでした。
【口腔内腫瘍】
口腔内(歯肉や舌、顎骨)から発生する腫瘍で、悪性黒色腫・扁平上皮癌・線維肉腫などの悪性腫瘍が代表的です。
放置すると、口腔内の腫瘍からの炎症、出血、化膿などにより摂食障害をおこし衰弱していきます。
写真は悪性腫瘍摘出手術後の顎骨のレントゲン写真です。
顎の骨が広範囲に溶解しています。
下顎骨片側全摘出術を実施しました。
(治療)
- 外科手術(顎骨を含んだ切除が必要なことが多い)外科的な摘出が困難な場合は放射線治療施設を紹介することもあります。
- 転移性が強くない腫瘍では外科手術のみで根治の可能性もあります。
- 転移性が強い腫瘍の場合は生存期間を延長するために化学療法が必要な場合があります。
【腹腔内腫瘍】
腹腔内には胃、腸、肝臓、膵臓などの消化器や腎臓、膀胱など泌尿器、副腎などの内分泌器官など様々な臓器・構造物が存在します。腫瘍は全身ほぼ全ての臓器から発生する可能性があります。
胸腔内腫瘍と同様に腹腔内腫瘍も見た目で気付くことは難しく、定期的な画像診断を含む健康診断による早期発見・早期治療が望ましいです。
写真の症例は元気食欲消失で来院されました。
画像診断の結果、右の腎臓周辺から腫瘤が発生し副腎と肝臓、横隔膜の一部を巻き込み存在していました。腫瘍が存在することで高カルシウム血症もひきおこしていました。重度の高カルシウム血症は腎臓に負担をかけ腎不全を発症するため、 早期に対応する必要があります。
(治療)
- 多くは外科手術による摘出が必要
*写真の症例では右側腎臓摘出術(巻き込まれていた副腎、肝臓・横隔膜の一部を一塊で摘出)を実施しています。病理検査では骨外性骨肉腫と診断されました。 - 腫瘍の種類によっては化学療法が必要なこともあります。
- 転移性が強い腫瘍の場合は生存期間を延長するために抗癌剤の治療が必要な場合があります。
【肛門嚢の腫瘍】
肛門嚢という肛門の脇に存在している袋状の器官から腫瘍が発生することがあります。肛門嚢アポクリン腺癌という悪性腫瘍が代表例です。
この腫瘍は局所で増大することで、排便困難・腫瘍の自壊・感染などの症状や腫瘍が存在することで血液中のカルシウムが高くなり ,腎不全を発症することも多い腫瘍です。
転移性の強い腫瘍ですので早期に発見・治療しないと根治の可能性は低くなり、術後の合併症(便失禁など)のリスクが高まってしまいます。
(治療)
- 外科治療(肛門嚢の腫瘍摘出および腹腔内に存在するリンパ節の摘出)
- 遠隔転移性の強い腫瘍ですので、化学療法の併用を検討する必要があります。
【甲状腺の腫瘍】
頸部腹側にある甲状腺から発生する腫瘍で、頸に硬いしこりが触知されて来院されることが多い腫瘍です。
早期に発見されることが難しく、進行すると声の変化、発咳、嚥下困難、発声障害、顔面浮腫などの症状がみられます。
大きくなればなるほど転移率が高くなり、浸潤の程度が強くなると予後が悪くなります。
やはり、早期発見・早期治療が重要な腫瘍です。
(治療)
- 外科治療が第一選択ですが、外科的な摘出が困難な場合は放射線治療施設を紹介することもあります。
- 遠隔転移性の強い腫瘍ですので、化学療法の併用を検討する必要があります。